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1-14 初デート、そして再会 2

last update 最終更新日: 2025-06-09 21:19:31

「い、いえ。そんなこと気にしないで下さい」

謝る修也を前に、朱莉は慌ててコーヒーを飲んだ。

「ありがとう、朱莉さん。それでどこか行きたい場所とかある? でも15時からはお母さんの面会に行くからあまり遠くへは行けないよね」

「そうですね……。でもお子供向けのイベントとかは、何がやってるかは知っているんですけど……いざ、自分のこととなるとさっぱりで……」

「朱莉さんは本当に蓮君が一番なんですね。自分のことよりも。蓮君はとても良いお母さんに出会えて幸せですね」

じっと朱莉を見つめながら言う修也の言葉は朱莉の心を揺さぶった。

(蓮ちゃんは……私にとって、一番大切なかけがえのない存在。だけど私は蓮ちゃんの本当のお母さんではないし、翔先輩が帰ってくればこの契約婚も終わりで蓮ちゃんを手放さくてはならない……)

すると、修也の顔に戸惑いの色が浮かんだ。

「え? 朱莉さん……どうして泣いているの? ひょっとすると朱莉さんを傷付けることを言ってしまったかな……?」

「え……?」

朱莉は目に涙が浮かんでいることに気が付き、慌ててゴシゴシ目元をこすった。

「駄目ですね、私って……最近……涙腺が緩くなってしまったみたいで……」

「朱莉さん……」

修也は朱莉が落ち着くのを待つと、再び声をかけた。

「そうだ、朱莉さん。もしよければ一緒に映画でも観に行かない?」

「映画ですか?」

「そう、何か観たい映画とかはある?」

「それが子供向けのアニメ映画なら上映しているのは知っているのですけど……いざ自分が観るとなると、何を上映しているのかも分かりません……」

朱莉その時思った。今の自分の生活の中で、蓮との暮らしがどれほど比重を占めていたかということに。

「そうか。それじゃ、今どんな映画があるか2人で調べてみようよ」

修也はスマホを取り出した。

「ええ。そうですね」

そして2人は互いに上映中の映画を調べ、洋画のファンタジー映画を観に行く事にした。SFXを駆使した最近話題になっている映画である。

「今から行けば、次の上映に間に合うから先に座席とチケットを押さえておこうか。朱莉さん、座席は中央列の通路側でもいいかな?」

「はい、私はどこでも構いません」

すると修也は慣れた手つきで、あっという間に座席とチケットを購入してしまった。その様子を見て朱莉は尋ねた。

「あの……もしかすると各務さんはよく映画を観に行か
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